(問) 本日の政策決定会合の内容のご説明を総裁からお願いします。また、こうして緊急の会合を開かれた理由も併せて教えて頂きたいと思います。
(答) 最初に、G7から帰国した直後なので、まず今回のG7について簡単に申し上げたいと思います。そのことがなぜ本日の政策決定会合を開くという決定に至ったかということと関連しています。今回のG7では、国際金融市場や米欧金融機関の経営を巡る緊張が非常に高まる中で、各国からの参加者が強い危機感を持ち、精力的かつ率直な議論を行いました。そうした議論を経て、国際金融市場の安定性と金融システムに対する信認を確保するため、G7各国が強い決意をもって、必要な施策を迅速に推進していくことが確認されました。また、当局が具体的に何をすべきかを強く意識し、そのことを明確なメッセージで打ち出すということを行いました。その結果、ご覧のとおり従来形式のコミュニケとは異なり、簡潔かつ明瞭なアクション・プランを発表したわけです。G7の声明後は、このアクション・プランを速やかに具体化していくことが大事であり、既に、各国で様々な対応策が講じられてきています。本日、日本銀行が公表しました「金融市場の安定確保のための金融調節面での対応策」も、こうした取り組みの方向性に沿ったものです。
そこで次に、本日公表しました対応策について説明します。今述べましたように国際金融市場の緊張が高まっており、その影響はわが国の短期金融市場にも及んできています。市場参加者のリスク回避姿勢の強まりから金利のばらつきが生じているほか、国債を担保とするレポ市場の流動性の低下がみられます。また、企業金融面でも、コマーシャル・ペーパーの金利に上昇圧力が
かかるなど、一部で資金調達環境に厳しさが窺われます。こうした点を踏まえまして、日本銀行は、金融市場の安定確保に万全を期する観点から、10 月8日、「金融調節面で更に改善を図る方策について速やかに検討」する旨を公表しました。今回の対応策は、そうした検討課題の中
で早期に結論を得られた事項を取り纏めたものであります。今回の対応策のポイントは、以下の3点です。第1に、国債レポ市場における流動性改善のための措置として、国債の現先オペの対象国債の拡大と、国債補完供給──日本銀行による国債の貸付ですが──この最低品貸料の引
き下げ等を実施することとしました。第2に、企業金融の円滑化のための措置として、CP現先オペの積極活用と共に、資産担保CP、いわゆるABCPの適格要件を緩和することとしました。第3に、ドル供給オペについて、各国中央銀行と同様、「固定金利を提示して、適格担保の範囲内で、供給総額に制限を設けずにドル供給を行う方式」を導入することとしました。以上が臨時の金融政策決定会合の内容ですが、この金融調節面の対応策とは別に、本日、政策委員会の通常会合を開催し、日本銀行の買入れ株式について、株式市場の情勢を見極める観点から、当分の間市場売却を停止することとしました。こうした一連の措置は、G7以降、各国が矢継ぎ早に打ち出してきた様々な対応策とあいまって、わが国を含め世界の金融市場の安定に貢献していくものと考えています。今の説明だけですと、技術的に少し理解しにくい点があるかと思いますが、その点はまたご質問にお答えしたいと思います。
(問) 本日の東京株式市場は1,171 円上昇となり株式市場は回復しましたが、この背景には各国中央銀行ならびに政府の対応があるかと思います。先週から本日にかけて状況はどのように変化したと認識されているかご説明頂きたいと思います。
(答) まず先週末にかけての金融市場ですが、米欧の金融機関の破綻などを背景に株価が大幅に下落していました。米欧の短期金融市場における信用スプレッドも大幅に拡大し、特にドルの短期金融市場では流動性が著しく逼迫した状態が続いていました。こうした中で先ほど申し上げましたG7の会合が開かれ、各国が強い決意を持ってアクション・プランを公表したということであります。G7後の金融市況をみますと、今のご質問にもありましたとおり、株価は各国で上昇しているほか、短期金融市場における信用スプレッドも欧米でやや低下しています。これは各国における具体的な政策の公表が市場参加者に好感されていることを反映した動きであると思います。ただし、この米欧の金融システム問題の解決に向けてはなお取り組むべき課題が多く、市場参加者の信認を取り戻すには、政策を積み重ね実効を挙げていく必要があると思います。日本銀行としても今後とも国際金融市場の動向を注視しつつ、金融市場の安定確保に努めていきたいと思っています。
(問) 今回の国債レポ市場の活性化について、このような効果が出る、という現状の総裁の認識をご説明願えますか。例えば外資系金融機関では、レポ取引に参加しようとしても国債自体をなかなか借りられないということもよく聞くのですが、現状認識と効果について教えて下さい。
(答) まず国債レポ市場についてご説明します。例えば国債の取引を考えてみると、国債を保有するときにその国債のファイナンス(購入のための資金調達)を行うに当たり、レポという形式、すなわち国債を買戻し条件付きで売却するというかたちでファイナンスすることが多く行われています。その意味では、国債レポ市場というのは国債を流通させていくための重要な市場であるわけです。この国債レポ市場ですが、リーマン・ブラザーズの破綻を契機とした決済の混乱あるいはカウンターパーティ・リスク(取引相手に対するリスク)への意識の強まりから、レポ・レートが高止まるなど流動性の低下が足許顕著になっています。特に、国債の中でも変動利付債や物価連動債を使ったレポ取引については、足許の価格変動が大きいことから、このレポ取引でのファンディング(資金調達)が困難化しているという面が窺われます。今回の措置は、こうした状況を踏まえて、国債現先オペの対象にこれらの国債を追加するものであり、これによってレポ市場の流動性の改善が図られることが期待されます。次にカウンターパーティ・リスクについてですが、これはある金融機関と取引関係を結ぶことに対する懸念を意味しますから、この問題に対応して
いくためには、今回、欧米各国が打ち出したような資本を充実させていくための施策ももちろん必要となります。日本銀行の今回の施策は、国債レポ市場において少しでも流動性を改善させていくための施策です。
(問) 日本銀行も欧米と連携して流動性の供給等をしていますが、そのほかの面、例えば預金の全額保護や公的資金の注入といった面については、日本では必要性があると感じていますか。
(答) 預金の全額保護あるいは銀行債務の全額保護は、日本の金融システムが非常に厳しい時に日本も導入したというのはご案内の通りです。その後、関係者の真剣な取組みによって金融システム問題を克服し、そうした全額保護から脱却できる状況になりました。現在の日本の金融機関および日本の金融セクターは全体として安定性を確保していますので、今回欧米が導入した全額保護といった措置が必要であるとは考えていません。それから、公的資金の注入についてですが、一般的には、金融機関の状況を十分に点検し、その上でどのようなセーフティー・ネットの仕組みが望ましいかということは、常に考えた方がよいテーマであると思っています。
(問) 欧州に続き米国でも公的資金を使った資本注入がほぼ固まりつつあります。これについての総裁の率直な感想をお願い致します。
(答) 記者会見の席でいつも申し上げていますが、問題は流動性の逼迫というかたちで表面化しますが、その背後には、銀行のソルベンシー(支払能力)、健全性の問題、あるいは資本不足という問題があると思っています。そういう意味で資本不足に対してまず民間で最大限の努力をし、その上でなお自己資本が足りない場合には、公的資金の注入を考えるべきだと思います。今回のG7、あるいはその前後の諸会合でも、日本の経験を踏まえて、現在のような状況下では公的資金の注入も必要であるということを強く申し上げました。
(問) 今の質問と関連するのですが、金融危機の震源地である米国でポールソン財務長官が2,500 億ドルの公的資金を金融機関に一斉投入することを発表したわけですけれども、これをどう評価していらっしゃいますか。
(答) 先ほど発表されたばかりであり、個別の内容についてコメントすることは差し控えたいと思いますが、現在米国の金融システムの置かれた状況を考えますと、適切な策だと強く思います。
(問) 欧州で銀行間市場の取引を政府が全額保証するという措置が週明けの世界の株式市場の急反発の大きな材料になったと思います。米国もおそらくほぼ確実に追随するのではないかと市場はみています。その中で日本の市場は全体的に安定を保っていますが、欧米でそうした措置が行われた時に日本で行っていないということのデメリットが生じる可能性もあると思います。例えば、日本国内で銀行間取引の政府保証がなされないことの裏返しとして、日本の銀行が欧米の市場から逆に資金が取れなくなってしまうということも考えられるわけです。G7の声明には国際的な一貫性が必要ということもありましたが、そのような意味で日本でも銀行間市場取引の全額保証というような、1998 年に三塚大臣が述べたようなかたちで復活する可能性があるのかどうか、ご意見をお聞かせ下さい。
(答) 今回、欧米の全部の国ではありませんが、導入された銀行の債務の保証というのは、かつて日本で行われた債務全額保証ではなく、一定の条件を満たす銀行の債務を保証するというものです。いずれにせよ、そうした異例の措置を導入するかどうかというのは、その国の金融機関あるいは金融市場の状況に依存して決まってくると思います。日本の場合は、国際金融市場の混乱の影響は相応に及んできているとは思いますが、全体としては健全性、安定性を維持していますので、そうした全額保護もしくは債務の保護ということは必要だとは思っていません。日本の金融市場では、日本の金融機関と外国の金融機関との間でレートの格差が生じるという状況になっています。そのことは日本の金融市場の安定という面からは、もちろん望ましくないことであります。この点については2つのことが言えると思います。1つは、金融機関が日本銀行に担保を差し出せば、日本銀行はオペで十分に資金を供給できるという体制を組んでいます。また、今回欧米で打ち出された一連の措置──資本注入あるいは銀行債務の保証を含めてですが──については、日本で営業活動を行っている外国の金融機関に対しても確実にプラスの影響を与える性格のものです。そのように考えると、現状、日本の金融機関あるいは金融市場という観点から、債務の全額保護に類似した措置を導入する必要があるというようには思っていません。
(問) 今回はG7後の各国の政策が市場では好感されていると思いますが、次の焦点として、米国の実体経済がどうなるかということがマーケット関係者やエコノミストの間で懸念されています。現時点で総裁はこれからの米国経済の先行きをどのようにみているのか、あるいはそれがどのように日本経済に影響するとみているのか、考えをお聞かせ下さい。
(答) 米国経済の先行き、それから日本経済への影響については、今月末の金融政策決定会合において展望レポートを決定する中で精力的に点検作業を行っていきたいと思っています。それを申し上げた上で、米国経済についての現時点での見方を若干お話したいと思います。今回のリーマン・ブラザーズの問題が起こる以前から、米国の経済は停滞傾向を強めていましたが、今回の一連の金融の動きが企業あるいは家計の資金調達の条件を厳しくするということだと思います。そのことが実体経済にどのように影響していくかということを米国の当局者は注意してみていますが、私もそこを注意してみていく必要があると思っています。そのことを含めて日本経済にどの程度の影響が及ぶことになるのか、これは定性的にはマイナス方向ですが、定量的にはどの程度とみるのかということについては、次回の決定会合でさらに点検作業を行いたいと
思っています。
(問) 年末越えの資金供給を早期に開始すると本日の発表文に書かれており、これは例年に比べてということだと思いますが、今の段階で具体的なイメージ、時期として何かあれば教えて下さい。
(答) 金融調節は金融市場の状況をみて行っていきますから、予め機械的に決めているわけではありません。ただ、例年ですとだいたい10月末に年末超えのオペを開始しています。例年がそうですから、今年はそれよりも早くということになりますが、今の段階で年末越えのオペをいつ開始するかは申し上げることはできません。それは、市場の状況をみて判断していくということであります。目的は金融市場の安定ですから、それに則して判断していくということであります。
(問) 前回の金融政策決定会合後の定例記者会見で、協調利下げについて質問があり、白川総裁は協調は望ましくないと、「協調」に対する一種のアレルギーのようなご発言があったと記憶しています。その翌日に米・欧6カ国、他国も合わせると10 カ国程度の協調利下げが行われ、日本は経済状況を踏まえ必要がないという判断だったと思いますが、絵に描いたような協調行動が行われました。協調利下げについて、協調利下げ前と後でお考えは変わったか、そして、必要な機会が生じた場合には日銀も参加する可能性はあるのかお聞かせ下さい。
(答) まず結論から申し上げますと考え方は全く変わっておりません。前回の記者会見で申し上げたことは、各国の金融政策は各国の状況に照らして運営すべきであるということです。金利を変更することが自国の経済の状況に照らして適切であれば勿論変更すべきです。自国の状況に照らし望ましい行動でないにもかかわらず、協調すること自体が自己目的化してしまい、それが協調利下げあるいは協調利上げというのであれば、そうした考え方はとらないということを申し上げたわけです。今回の金融市場の混乱は、欧州、米国の金融市場に特に大きな影響を及ぼし、それらの国は金利を引き下げることが適当と判断したわけです。この問題はグローバルに広がっているものですから、同じタイミングで共同して発表したということであり、これは自国の金融経済の状況を犠牲にして協調利下げに参加したということではないと思っています。そういう意味で、私自身は、あくまでも自国の経済の状況に照らして引下げ・引上げを判断していくという、中央銀行としての原理原則を今後ともしっかりと持っていきたいと思っています。
(問) 本日の発表文の中に当座預金制度の運用などの改善策についてもできるだけ速やかに結論を得ると書かれており、先の説明で準備預金の付利について触れられたと思うのですが、改めてその検討状況をご説明頂けますでしょうか。それから、市場では、準備預金の付利は逆に資金を吸収してしまうことになり、市場の資金の巡りが悪くなるのではないかという声が聞かれていますが、その点も含めてお願い致します。
(答) 最初に検討状況についてご説明致します。10 月8日に、主要国の中央銀行による協調行動を受けまして、これに対して強い支持を表明するとともに、日本銀行の当座預金制度の運用を含め金融調節面で更に改善を図る方策について速やかに検討し報告するように執行部に対し指示を致しました。ご質問の当座預金制度の運用については、米国等主要国中央銀行のしくみを参考にしながら、金融調節面の改善の観点から適切な枠組みを検討しているところであります。今まさに検討しているところでありまして、どのような具体策が出てくるかは本日この段階では発言を留保したいと思います。一般論として、米国や欧州の中央銀行も導入している準備預金への付利は、現在のような特に金融市場の緊張が高まっている状況では、資金を吸収するというよりも資金の運用先を提供するものと考えたほうが良いのだと思います。インターバンク市場でお互いに疑心暗鬼の状況になると、相手に資金を放出したくない、あるいは放出するとしても非常に高い金利で放出するという状況になってきます。そうしますと、相対的に信用度の低い先は資金調達が難しくなるわけですが、そうした先に対して中央銀行が積極的な資金供給オペで対応するということになるわけです。一方、相対的に健全な金融機関は、市場でわずかな金利を得られるとしてもデフォルトの危険性を考え、あえて市場で運用せず、運用先が無くなってしまいます。その時に安全確実な取引主体である中央銀行が運用手段を提供する、という側面のほうが強いと思います。
(問) 株式の処分についてですが、売却を再開する場合には改めて政策委員会で決定とあります。具体的な再開の時期もしくは再開に至るまでの条件、例えば市場が安定化するなどの細かい条件のようなものはあるのでしょうか。
(答) 現時点では、予断を持たず今後の市場の情勢を見極めて決めていく次第であり、再開の時期を決めているわけではございません。金融市場の状況をみて判断していくということであります。今回の決定の背後には、国際金融市場が混乱する中で日本の株価も大きく下落したということがあります。そういう意味で国際金融資本市場の安定と、その中で日本の株式市場が安定していくかどうか、抽象的な基準になりますが、そうしたことを点検しながら判断していくということになります。
(問) 今回の措置と直接関係はありませんが、政府与党が空席になっている日銀の副総裁人事を明日提示するという話になっています。本日、麻生総理のところに行かれた時にはそのような話があったのでしょうか。それと、半年ぐらい空席が続いてきたわけですが、この状況について改めてお考えをお聞かせ下さい。
(答) 本日官邸に参りましたのはG7の報告です。G7に行く前にも麻生総理に──あのときは財務大臣、経済財政担当大臣、それから官房長官も同席されていましたが──、日本の状況、金融市場の状況について説明し、金融市場の安定確保に万全を期しますということを私から申し上げました。総理からは、日本の金融危機の経験を踏まえて、その教訓をG7各国に伝えてほしいというお話があり、(G7では)大臣もそうですが、私もそうした発言を行いました。そうしたことを受けて、本日はG7の報告に行ったということであります。それから、現在、政策委員会のメンバーが2人欠けているという事態については、いつも同じことを申し上げていますが、2人欠けているというのは異例の事態であります。日本銀行の政策業務運営の最終責任者、執行の最終責任者としては、もちろん欠員があっても日本銀行の政策運営あるいは業務運営に支障がないようにするというのは当然のことですから、そこは最大限努力をしているわけです。しかし、やはり2人欠けているというのは異例の事態ですから、これは機会がある度に政府の方には早く適切な方を任命して下さいと申し上げているということです。
(問) 今の質問の関連ですが、副総裁にはどういう人が望ましいのか、固有名詞を挙げて頂いても結構ですので教えて下さい。もう一つ、ドル供給オペの固定金利の考え方を教えて下さい。おそらくFRBの政策金利やOIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)等を勘案すると思うのですが、この固定金利の考え方を教えて下さい。
(答) 前者についてですが、副総裁の任命権者は内閣であり、私の立場で、今固有名詞を挙げるのは明らかに不適切ですので控えさせて頂きます。次に固定金利の件ですが、今のご質問にもありましたように、ニューヨーク連邦準備銀行が、OIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)といわれる金利を勘案して金利を提示し、この金利で上限を定めずにドルを供給するという枠
組みになっています。
2008-10-14