(問) 今日の政策決定会合を踏まえた日本銀行の景気判断と今後の金融政策の運営方針について、お聞かせ下さい。
(答)本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0.3%前後で推移するよう促す」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景について説明しますと、まず、わが国の景気については、既往のエネルギー・原材料価格高の影響や輸出の減少などから停滞色が強まっており、海外経済の減速が明確化するもとで、当面、こうした状態が続く可能性が高いと判断しました。すなわち、輸出は海外経済の減速を背景に減少しています。企業部門では企業収益が減少を続けており、設備投資は減少し
ています。家計部門では、雇用者所得の伸び悩みやエネルギー・食料品価格の上昇などから、個人消費は弱めの動きとなっています。また、住宅投資は横這い圏内で推移しています。こうした内外需要のもとで、生産は減少を続けています。物価面では、除く生鮮食品ベースの消費者物価は、9月の前年比が+2.3%となっていますが、石油製品価格の下落や食料品価格の落ち着きを反映して今後低下していくと予想されます。わが国経済の先行きについては、やや長い目でみれば物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していく可能性が相対的に高いと判断されます。ただし、こうした見通しに関する不確実性は、いつも申し上げている通り非常に高く、世界経済の減速や国際金融資本市場の動揺を踏まえると、回復への条件が整うには相応の時間を要するとみられます。次に、こうした見通しに関するリスク要因をみると、景気については引き続き下振れリスクに注意する局面にあると判断しています。これまでの各国政府や中央銀行による対策を受けて、短期金融市場では幾分改善がみられていますが、国際金融資本市場は依然として強い緊張状態にあります。こうしたもとで、世界経済には下振れるリスクがあります。また、わが国の金融環境についても、中小・零細企業で資金繰りが悪化しているほか、大企業でも市場での資金調達環境が悪化しています。こうした状況が一層厳しさを増す場合には、金融面から実体経済への下押し圧力が高まる可能性があります。物価面については、上振れリスクは以前と比べ小さくなっている一方、景気の下振れリスクが顕現化した場合や国際商品市況がさらに下落した場合
には、物価上昇率が一段と低下する可能性があります。金融政策運営の考え方については、経済・物価の見通しとその蓋然性、上下両方向のリスク要因を丹念に点検しながら、適切に金融政策運営を行っていきます。また、国際金融資本市場の動向を注視しつつ、引き続き、金融市場の安定確保に努めていく方針です。この間、わが国では、国際金融資本市場の動揺の影響から、投資家のリスク回避姿勢が強まっていることを背景に、CP・社債の信用スプレッドが拡大しているほか、CP・社債の発行見送りの動きが拡がるなど、市場での資金調達環境が悪化しています。また、中小・零細企業では、資金繰りや金融機関の貸出姿勢が厳しいとする先が増加しています。こうした状況を踏まえ、本日の会合では、企業金融の動向について詳細に点検するとともに、その円滑化に資するために中央銀行としてどのような対応が適切かについて議論を行いました。この議論を踏まえ、当面、CP現先オペを一層活用していくとともに、民間企業債務の適格担保としての取扱いや民間企業債務を担保とする資金供給面の工夫について速やかに検討・報告するよう、議長である私から執行部に対し指示を行いました。
(問) デフレのリスクについてお伺いします。景気後退に入った米国、ヨーロッパでは、さらに長期的なデフレのトレンドに入ったのではないかという指摘が出ています。日本につきましても、物価動向や最近の経済指標などをみますと、再びデフレの入り口に差し掛かっているのではないかという指摘もあります。この点について総裁の認識をお伺いします。
(答) デフレという言葉を用いたご質問ですが、デフレについて議論する場合、最初にどのような定義で議論するかを明らかにしたほうがいいと思います。デフレという言葉は、少なくとも3通りの意味で使われてきたと理解していま
す。1つ目は、景気が悪いということをデフレ的だ、といった意味で使う場合であり、2つ目は資産価格が下落していく状態をデフレという言葉で表現した場合、3つ目は物価、なかんずく、消費者物価が下落していく状態をデフレという言葉で表現した場合であり、こうした3つの使われ方があると思います。今のご質問は、景気が悪くなっていくという中で、特に物価の下落に焦点を当てて今後どうなっていくのか、という観点でデフレという言葉を使った質問だと理解してお答え致します。思い起こしてみますと、各国の物価は、エネルギー・原材料価格の上昇あるいは食料品価格の上昇から、この7月まで非常に上昇してきたわけです。また、(その原因として)原材料価格等の価格転嫁の動きから各国の物価が上昇してきたわけでもあります。日本でも同様の理由から、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比が+2.4%まで上昇したわけです。先行きについては、先程説明しました通り、国際商品市況が既に下落に転じており、その影響から物価上昇率は低下していくという見通しであり、さらに下振れる可能性もあるとみています。同様に、海外でも物価上昇率が下がる傾向が既にみえ始めています。政策上どう考えていくかについてですが、いつも強調していることは、物価上昇過程ではセカンド・ラウンド・エフェクト(2次的効果)が発生するかどうか、つまり原材料・輸入品のコストが上昇し、その価格転嫁の動きによってさらに物価が上がっていくかどうかに注目しているということであり、この席で何回も申し上げてきました。幸いセカンド・ラウンド・エフェクトは日本において発生してこなかったと理解しております。今後、コスト面で価格が下がる過程で、そのセカンド・ラウンド・エフェクトとしてさらに物価が下落するかどうかが1つの注目点であります。物価を規定する要因は、需給バランス、輸入品のコスト、人々の物価に対する予想――いわゆる予想インフレ率――です。私どもとしては、今後、国内の需給バランスがどのように変化していくか、予想インフレ率がどのように変化していくかを注意してみていきたいと考えています。
(問) 欧米や日本でデフレの兆候というのは、まだみられないと認識されているということで、よろしいのでしょうか。
(答) 物価上昇率が下がっていくかどうかについては、先程説明した通りです。物価上昇率が下落し、これが政策上大きな問題となるかどうかというのが、恐らくご質問の趣旨かと思います。欧米は、資産価格が大きく上昇した後、これが下落する中で債務が残っているという厳しい状況を、過去の日本と同様、この約1年の間に経験したわけであります。先程、デフレについて3つの定義を申し上げましたが、このような大きなバブルが破裂した後の後遺症と言いますか、その影響から、各国とも景気は厳しい局面を迎えており、こうした状況も先程言った(最初の)意味でデフレと呼ばれるのかもしれません。それに加えて、物価の下落が原因となって固有の問題を引き起こすかどうかですが、今のところそうした危険が大きいとは思っておりません。ただ、各国の政策当局者は、その可能性も含めて常に経済情勢を点検しているということかと思います。
(問) 先日のワシントンでの金融サミットは大変注目される会議となったわけですが、そのサミットでは、各国が財政・金融両面から景気を下支えしていくことで協調していくことが合意されました。しかしながら、日本銀行の政策余地というのは極めて限られているというように認識せざるを得ません。本日の景気認識は厳しいものでしたが、景気がさらに下押しされた場合、日銀が採
れる政策余地はあるのでしょうか。また、どのような判断があり得るのでしょうか。
(答) 私どもは、先行きの金融経済情勢が一段と悪化した場合に中央銀行としてどのような対応が採りうるのかということについて、常に幅広く検討を行っております。本日の会合において、年末、年度末に向けた企業金融の円滑化に資する措置を検討するよう指示したというのもその表れであります。ご質問は、金利水準がこれだけ低い中でどのような施策があり得るのか、という趣旨と理解した上でお答えします。短期金融市場の円滑な機能の確保という観点から考えますと、極めて低い金利水準のもとでは、追加的に金利を引き下げることで様々な問題が生じる可能性があります。特に、現在のように金融市場の機能低下が問題となっている状況では、この点に関する配慮は一段と重要になってくると思います。先行き具体的にどのような政策対応を採っていくかは、今申し上げた留意点も踏まえつつ、その時々の経済・物価情勢や金融市場動向を踏まえて適切に判断していくという方針であります。加えて、現在の世界経済の厳しい状況、日本経済の厳しい状況の背景を考えてみたいと思います。これは、2000 年代半ば、特に2004 年から2007 年の数年にわたる高い世界経済の成長の局面で蓄積された様々な不均衡の調整
局面を、現在迎えているということだと思います。従って、当分の間厳しい経済情勢が続く可能性が高いとみています。こうした世界経済の動向を反映し、日本経済の回復に向けた条件が整うには相応の時間を要するとみられますし、金融政策によってそのような調整局面を帳消しにするということはできません。経済が深い調整や混乱に陥ることを防ぐ手当てを講じながら、ある程度時
間をかけて、回復に向けた基盤を整えていくという基本的な構えが大事であると思っています。
(問) 米国の中央銀行では、日本がかつて行った量的緩和を既に行っていると思うのですが、日本でも、そうしたことを将来またしなければならなくなるのでしょうか。それから、量的緩和を行うと短期マーケットの機能がすぐに停止してしまうことになるのでしょうか。それとも、マーケットの機能をある程度活かしながらこうした政策を採ることができるのでしょうか。以上が1点目です。2点目ですが、日本がかつてそうした政策を採ったときは、期待に働きかけるというか、時間軸効果を利用することで効果が上がったと思います。具体的にどうすべきかわからないのですが、金利がここまで低くなっているのでこれ以上はいじらずに、期待に働きかけるような方策を採ることはあり得るのでしょうか。
(答) 先程の質問でもお答えしました通り、中央銀行としては、常に金融経済情勢を点検しながら、最も適切な政策は何かということを考えていくというのが基本的な考え方です。その上で、まず、量的緩和政策と市場機能の関係についてお答えします。量的緩和政策の効果についての一般的な分析評価については、これまで日本銀行も色々なかたちで申し上げてきましたので本日ここで詳しくは申し上げませんが、金融システム不安が非常に高いときに金融機関の流動性需要に応えるかたちで潤沢な資金供給を行ったことで、金融システムの安定に貢献したと思っています。逆に言うと、金融システム不安が後退した後もなお流動性を潤沢に供給しようとすると、逆に金融市場の機能が低下し、金融機関が本当に必要な時に市場から資金調達をできなくなる事態が生じます。その意味で、かつて量的緩和政策を採ったときは、その時の金融経済情勢に照らして最もふさわしいと判断したということだと思います。今後どのような政策があり得るかについては、先程申し上げた通り金融経済情勢をみながら点検をしていくということだと思います。
それから時間軸効果についてのご質問ですが、日本銀行はいわゆるゼロ金利政策の時代と量的緩和政策の時代の2度にわたって、いわゆる時間軸効果を狙った政策を採用しました。量的緩和政策を解除する時に評価した通り、金融経済情勢が好転してくる局面において、日本銀行が低金利またはゼロ金利を続けることを約束することにより、主として中期金利の安定に貢献し経済活動を下支えする効果があったと評価しています。こうした時間軸効果を狙った政策ももちろん1つの方法ですが、中央銀行としては、これから経済が厳しくなっていく時にどのような政策がよいかについては、その時点の金融経済情勢をしっかり点検して判断すべきことだと思っています。
(問) 今回の世界的な金融危機あるいは世界的な不況が1930 年代のような大恐慌にまで発展する可能性は小さいと白川総裁はみておられると思いますが、その理由についてお伺いします。また、1930 年代のような大恐慌を防ぐための教訓についてもお伺いできればと思います。
(答) 1930 年代の世界経済の落ち込みも、それから現在私どもが直面している世界経済の厳しい状況も、それに先立つ時期においてバブル的な好景気、すなわち経済の高い成長、それから資産価格の大幅な上昇と信用の膨張が続いたという点では共通していると思います。しかし、1930 年代は、バブル崩壊後の経済の調整が停滞というレベルを超えて恐慌という状態にまでなったわけですが、今回そうした状態になるかどうかということを考えた場合、私は、今回は政策当局の対応が大きく異なっていると思います。世界大恐慌の時は、足許の状況と比べ少なくとも3点の違いがあると思います。第1は、多くの金融機関の破綻に対して有効な対策が講じられなかったと思います。第2に財政・金融政策も緊縮的に運営されたということです。第3に各国で保護貿易主義が台頭したということです。それと対比する形で今回の政策当局の対応をみると、まず第1に、各国の政府や中央銀行によって、あるいは金融機関自身の努力によって現に様々な対応が進められています。例えば、中央銀行による流動性の供給の枠組みの強化、それから経営が悪化した金融機関に対する公的管理や公的資金の注入、さらには不良資産の買取りといった諸施策が迅速に講じられています。第2に、金融政策面でも各国が緩和に転じているほか、財政政策の面でも対応が採られつつあります。第3に自由貿易体制もしっかり堅持されているということです。この3つの政策当局の対応の違いを考えると、今回は前回のような大恐慌とは異なると思っています。また、そうしてはいけないということだと思います。教訓は何かということですが、只今この3点において政策当局の対応が今回は異なると申し上げましたが、この3点は(教訓として)非常に重要であると思います。それに付け加えてさらに教訓ということを申し上げますと、先程も少し申し上げた通り、大規模なバブルが発生してしまった以上、その調整の過程にはある程度時間がかかるということも冷静に認識しておく必要があると思います。この点を認識しないまま性急な手段に走り、例えば保護貿易主義に走るとか、必要以上に規制が強化されるということになってくると、今度は市場経済あるいはグローバル経済の強みが発揮されなくなり、結果として世界経済全体の成長力の基盤が崩れていくと思います。このことも教訓と言いますか、意識しておくべき点だと思います。
(問) 先程総裁は、世界経済および日本経済に対する認識としていわゆる不均衡を調整している過程にあるとおっしゃった上、この調整を金融政策で帳消しにすることは難しいとおっしゃいました。帳消しにすることがなぜ難しいかについてもう少し詳しくご説明頂ければと思います。
(答) 今回、いわゆるサブプライム住宅ローン問題というかたちで信用バブルの問題が顕現化したわけですが、米国経済が直面している不均衡について考えてみますと、住宅投資が非常に活発であった結果、過剰な住宅在庫が現にあるわけですので、この過剰な住宅ストックの調整を終わらせることが必要になります。この調整が終わるまでの間は住宅価格に下げ圧力がかかり、それが金融システムにもストレスとしてかかることになります。残念なことですが、このように住宅をたくさん造り過ぎたことが現にあるので、ある程度これを取り除く調整に時間がかかるわけです。別の次元で言いますと、例えば(米国の)家計の債務比率は──これは色々な方法で計算できますが──過去のトレンドと比較するとかなり高い状況にあります。どのような水準が正常かについて数字では示せませんが、現在、家計の債務が多い状況であるとすれば、貯蓄をすること、言い換えると消費を減らすといった何らかの調整が必要になります。金融政策にできることは、その調整に非常に弾みがついて大きな調整に入っていくことを防ぐことです。このために、もちろん金利政策もそうですし、流動性供給により金融市場、金融システムの安定性を保つことを行います。ただしこれらは深い調整に入っていくことを防ぐための方策であり、根本にある住宅
の造り過ぎあるいは家計部門の債務過剰ということ自体を金融政策で帳消しにすることはできないということです。
2008-11-25