(問) 本日公表された展望レポートでは、今年度および来年度の実質成長率
見通しについて、それぞれマイナス3.1%、プラス1.2%と修正されまし
たが、本日の決定会合での議論を踏まえ、経済・物価情勢の評価、そして政府
の追加経済対策の影響をどの程度この数値に織り込んでいるかについてお聞
かせ下さい。
(答) 本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、
0.1%前後で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維
持することを全員一致で決定しました。
こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、展望レポートに
おける見通しを踏まえた上でご説明します。前回の展望レポートを公表して以
降、世界経済は同時かつ急速に悪化しましたが、最近に至り、世界的に景気の
下げ止まりに向けた動きもみられ始めています。今回の展望レポートでは、こ
うした動きが世界経済の順調な回復につながっていくかどうかという点を中
心に、様々な角度から点検を行いました。
グローバル化が進展したもとで、各国の経済情勢の相互連関が強まっ
ている上、今回は、昨年秋以降世界経済が同時かつ急速に悪化するという大き
なショックに見舞われています。従って、わが国経済の先行きについても、各
国と同様に海外経済や国際金融資本市場の動向に大きく依存した展開を辿る
可能性が高いことに留意する必要があります。特に、米欧の金融システムの建
て直しがどのように進むのか、また、新興国も含めた世界の需要がどういう展
開を辿るのか、といった点については、なお不確実性が高い状態にあります。
今回の展望レポートでも、こうした不確実性を十分に念頭に置いて中心シナリ
オとリスク要因の双方を注意深く点検しました。また、新型インフルエンザの
拡がりと経済活動等への影響については、今後、注意深くみていく必要がある
ことを確認しました。
それから、今回の見通しに関しては、どうしても数字に関心が集まる
わけですが、2008 年度後半のGDP前期比成長率が大幅に低下したことが
2009 年度GDP成長率に与える影響に注意が必要です。2009 年度は極めて低
いGDPの水準から始まるため、この年度中に日本経済が下げ止まる場合でも、
前年度対比の成長率自体は大幅なマイナスとなります。このように、経済の変
動が極めて大きい場合には、各時点における成長率、すなわち前期比でみた成
長率と年度平均の成長率が大きく異なり得ます。このため、経済・物価の中心
的な見通しを示していくにあたっては、参考計数として示した数字だけではな
く、その背後にある経済・物価のメカニズムに関する定性的な見方が、従来以
上に重要になってくると考えます。
ここまでが前置きで、ここから本論に入ります。まず、中心的な見通
しを述べます。景気面では、2009 年度前半は、内外の在庫調整の進捗を背景に
悪化テンポが徐々に和らぎ、次第に下げ止まりに向かうとみられます。その後、
2009 年度後半以降は、各国における各種政策が効果を顕わすとともに、金融や
実体経済における様々な調整も徐々に進捗するとみられるため、国際金融資本
市場が落ち着きを取り戻し、海外経済も持ち直していくと考えられます。わが
国経済も、こうした海外経済や国際金融資本市場の回復に加え、各種対策の効
果もあって、緩やかに持ち直し、見通し期間の後半には、潜在成長率を上回る
成長に復帰していく姿が想定されます。
物価面では、石油製品価格の下落に加え経済全体の需給バランスの悪
化などを反映し、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は2009 年度半ばにかけ
て下落幅が拡大していく可能性が高いとみています。その後、石油製品価格な
どの影響が薄れていくため、中長期的なインフレ予想が安定的に推移するとの
想定のもとで、下落幅は縮小していくと考えられます。
こうした中心的なシナリオに対する実体経済面での上振れ・下振れ要
因としては、4つの点を挙げました。すなわち、第1に国際的な金融と実体経
済の負の相乗作用の帰趨、第2に世界各国で取り組んでいる各種政策の影響、
第3に企業の中長期的な成長期待の動向、第4に国内の金融環境の動向です。
また、物価面の上振れ・下振れ要因としては、実体経済の変動に伴う物価の変
動に加え、物価固有のリスクとして、第1に家計のインフレ予想や企業の価格
設定行動、第2に輸入物価の動向を挙げています。
以上を2つの柱に基づいて整理すると、以下の通りとなります。
まず第1の柱に則してみると、わが国経済は、2009 年度後半以降は成
長率が緩やかに持ち直すとともに物価の下落幅も縮小していくとみられます。
従って、やや長い目でみれば、物価安定のもとでの持続的な成長経路に復して
いく展望が拓けると考えられます。
第2の柱に基づくリスク要因を点検すると、国際的な金融経済情勢、
中長期的な成長期待の動向、わが国の金融環境など、景気の下振れリスクが高
い状況が続いていることに注意する必要があります。物価面では、景気の下振
れリスクの顕現化、中長期的なインフレ予想の下振れなど、物価上昇率が想定
以上に低下する可能性があります。一方、中長期的には、世界経済の回復過程
で、現在の極めて景気刺激的な政策が維持された場合、一次産品価格の上振れ
などを通じて、物価が想定以上に上昇するリスクもあります。
以上を踏まえ、日本銀行としては、当面、景気・物価の下振れリスク
を意識しつつ、わが国経済が物価安定のもとでの持続的成長経路へ復帰してい
くため、中央銀行として最大限の貢献を行っていく方針です。
それから、政府の経済対策の効果をどのように織り込んでいるかとい
うご質問ですが、これはいつもそうですけれども、展望レポートについては各
委員がその時点で利用可能な情報を基に作成しています。従って、政府の経済
危機対策については既に公表されており、各委員はその効果を考慮に入れた上
で見通しを作っているということです。もっとも、具体的にどの程度の効果を
織り込むかは、各政策委員の判断に委ねられているということです。
(問) 今後の景気見通しについて、色々な要因や下振れリスクがあることを
前提として、今年度後半に景気が緩やかに回復していくとのシナリオは維持さ
れています。これは、先般のG7で「年内の回復」という表現を使っているこ
とと整合的と思われます。一方、先日の総裁のニューヨーク講演では、インバ
ランスの調整には相応の時間がかかるとして、「false dawn(偽りの夜明け)」
という表現を用いてよくよく注意しなければならないと述べていました。そう
いう面では、年内の回復シナリオと「false dawn」の関係をどのように解釈し
たらよいでしょうか。
(答) ニューヨークの講演で私が強調したかったことは、これだけ世界的に
信用バブルが拡大し、それが崩壊した今、調整過程にあるわけですから、その
調整には時間がかかるということです。日本のバブル崩壊後を振り返ってみて
もそうでしたが、調整に非常に長い時間がかかり、その間でも景気自体は回復
から後退へと循環が何回かありました。従って講演で強調したかったことは、
金融システムをはじめ経済の様々な建て直しは時間のかかるプロセスである
ことを認識しておいた方がよい、ということです。そうでないと、その間に例
えば保護主義が高まるなどというかたちで経済構造自体が悪くなってきます。
短期的な政策との関係で今ご質問のあった「false dawn」を特に強調したわけ
ではありません。
今回の見通しについても、足許これだけ大きな生産調整が行われ、在
庫調整が内外で進展しているわけですし、金融政策・財政政策の効果もこれか
ら期待できるということを踏まえると、この先の経済の経路は先程申し上げた
ようなことになると思います。しかし、その調整後の姿がどのようになるかは、
様々な要因に依存します。つまり、世界経済が2004 年から2007 年にかけてみ
られた高い成長率に戻っていくのか、あるいはもう少し低い成長率になるのか
は、今後の展開をみて判断していく必要があります。かつての高い成長率の姿
に戻ることをもって回復といっているわけではなく、あくまでも、短期の循環
としてメカニズムを説明したということです。
(問) 展望レポートでは新型インフルエンザについても言及されています。
現在の脆弱な金融経済情勢の中で、新型インフルエンザは「フェーズ5」とパ
ンデミック(世界的な感染爆発)1歩手前という状況にあり、大きなリスク要
因になると思うのですが、その辺についてどのようにお考えでしょうか。
(答) 新型インフルエンザの経済それから金融市場に対する影響については、
注意深くみていこうということで、今回の展望レポートにもその旨書いていま
す。ただし、現時点でマクロ経済への影響を直ちに評価できるわけではないの
で、今回は、注意深くみていくということを書きました。
まず、影響が把握しやすい金融資本市場への影響について申し上げると、
グローバルな金融市場では、警戒感を持って事態の推移を見守ってはいますが、
今のところ直接的な反応は限定的なものにとどまっているように見受けられ
ます。すなわち、感染が最も拡大しているメキシコの通貨や株価の下落といっ
た動きはありますが、その他の感染が確認されている国やエマージング諸国の
通貨等は概ね横這い圏内で推移しています。また、わが国を含む主要市場の動
きをみますと、この間の米国の大手金融機関の経営状況に対する見方や各地域
の実体経済指標への評価等に応じて上下する部分の方が多く、――これはあく
までも数日間の市場の動きでありますが――、これまでのところ、必ずしも新
型インフルエンザへの不安心理が相場の基調をかたち作っている展開とは
なっていません。
ただ、新型インフルエンザが不幸にしてもっと大きな拡がりを持ちます
と、これは当然、人の移動や生産活動、経済活動に影響を与え得るものですか
ら、現時点で私どもとしては、潜在的なリスク要因として注意深くみていくと
いうことに尽きます。
(問) 銀行券ルールについて改めてお尋ねします。ルールがない場合には、
日銀の資産の大宗が究極的には長期国債になってしまい、オペレーションが窮
屈になり、長期金利・短期金利の撹乱要因になるという技術的な問題がありま
す。さらに、国債市場における規律が無くなり、国債の格付けの低下を通じた
日銀の資産の劣化、ひいては中銀や通貨の信認の低下につながります。こう
いった事態を懸念しているため、銀行券ルールは必要であるという理解でよろ
しいのでしょうか。
(答) 繰り返しになってしまい恐縮ですが、教科書的な説明をもう1度致し
ます。そもそも日本銀行が長期国債を買入れているのは、物価安定を通じて持
続的な成長を実現していくという金融政策の目的を達成するために、資金供給
オペレーションを行っているからです。例えば共通担保資金供給オペのような
相対的に短い期間の資金供給オペと、長期国債による資金供給オペの両方を
使って金融調節を行っているのが現在の姿です。その際銀行券という長期安定
的な負債に見合った資金を供給するために、長期の安定的なオペレーション手
段として国債を買入れることが、円滑な資金供給につながります。要は、長期
国債の買入れは金融政策運営のために行うものであり、それはつまり物価安定
を通じた経済の持続的な成長の実現のために行っているものです。
そうした観点から、どの程度のオペレーションの金額が良いかというこ
とを判断し、現在の数字になっているわけです。仮に、長期国債の買入れを、
金融政策上の目的から離れて、例えば専ら財政のファイナンスを目的として行
うこととした場合、あるいはそうした目的であると市場に受け止められた場合、
金融政策運営に対する信認が失われることになるため、結局長期国債の金利そ
れ自体にも悪影響が出てくると思います。「ルール」という言葉が良いのかわ
かりませんが、長期国債の買入れを行っているのは適切に金融政策を運営して
いくうえで必要だからであり、これまで何度も申し上げていますが、以上の点
に尽きます。
(問) 展望レポートの経済成長率の話に戻りますが、冒頭では、年度後半に
は悪化のテンポが緩くなり、政府の政策も効果が出てくると若干前向きな発言
もありました。ただ、数字をみると、2009 年度のマイナス3.1%は戦後最悪
ということで一番低いですし、前回1 月の中間評価時点からもマイナス1.1%
ポイントとかなり引き下げられています。その引き下げ要因について、もう少
し詳しく教えて下さい。
(答) 先程、数字をみる上で、年度平均でみると多少ミスリーディングな面
があるという趣旨の発言をしました。今回の場合、2008 年度の第3四半期、第
4四半期にかけて急激に落ち込みました。その結果、仮に2009 年度がずっと
ゼロ成長で推移した場合でも、年度平均ではマイナス成長になるわけです。こ
れは、いわゆる「統計上のゲタ」と呼ばれていますが、計算をしてみると、大
体「ゲタ」がマイナス5%程度あります。こうした点を踏まえると、先程の数
字は2009 年度中の動きとしてはプラスの成長を意味しています。問題はこう
した景気の回復経路、すなわち年度後半に向けて成長していくという見通しが
正しいかどうか――この理屈については先程申し上げましたが――、その妥当
性にかかっているわけです。数字とメカニズムの関係は以上申し上げた通りで
す。
(問) 展望レポートについての確認です。今回の展望レポートは基本的に、
GDPの2009 年度の予想は下方修正したが、年度後半からの緩やかな回復シ
ナリオは維持したということになるかと思います。この回復のシナリオという
のは、今後新たに追加的な金融緩和策というものはやらなくても、現状の政策
を維持したままで実現できるという認識なのでしょうか。
(答) 日本銀行は1月の中間評価の後、毎回の会合で経済情勢の厳しさに関
する認識を深める中で、金融政策、金融システムの両面で様々な措置を講じて
きました。今回の展望レポートでは、こうした様々な施策が政府の対応ととも
に次第に効果を発揮し、今年度後半以降は景気が緩やかに持ち直す中で、物価
はマイナス幅が徐々に縮小していくということを想定しています。結論として
は、こうした動きが続けば、わが国経済は、やや長い目でみれば物価安定のも
とでの持続的成長経路に復していく展望が拓けるということです。
経済の状況をみると、昨年秋以降の世界経済を襲ったショックは非常
に大きなものであったため、望ましい経済・金融の姿に復帰するにはやはり時
間がかかると思います。色々な国で見通しを公表していますが、米国について
も、ユーロエリアについても、英国についても、彼らが想定する望ましい姿に、
例えば通常の金融政策のタイムラグである2年程度のうちに戻るかというと、
残念ながら戻っていないわけです。それだけ大きなショックが加わったという
ことです。加えて、危機に先立つ期間に蓄積された過剰、不均衡が大きかった
ということも指摘できます。重要なことは、現在講じている各種の措置の結果、
時間はかかるけれども最終的に望ましい姿に向かっていくかどうかというこ
とです。その点の判断が非常に重要ですが、今回の展望レポートでは、時間が
かかるけれどもそうした方向に向かっているということをいっています。
(問) 今、やや長い目でみればというお話をされたかと思いますが、物価上
昇率をみると、今年度も来年度も大幅なマイナスを予想されています。現状、
デフレリスクをどのようにみているのか、物価下落と景気低迷がつながってい
く可能性はないのか、改めて説明をお願いします。
(答) デフレという言葉で物価の持続的な下落を定義しますと、私どもは、
デフレスパイラルに陥ることがないかどうかを注意しています。デフレスパイ
ラルに陥るかどうかはいくつかの条件に依存しますが、最も重要なことは、中
長期的な予想インフレ率がどうなっているかということだと思います。それに
加えて、今後の経済情勢の展開、金融システムの状況などにも依存すると思い
ます。今回の展望レポートでは、インフレ予想が安定的に推移するという想定
のもとで、わが国経済は海外経済や国際金融資本市場の回復に加えて、金融シ
ステム面での対策や財政・金融政策の効果から、消費者物価の下落幅は2009 年
度後半以降縮小していくと予想しています。繰り返しになりますが、中長期の
予想インフレ率がどうか、金融システムがどうかといった点は重要なファク
ターであり、毎回の決定会合で注意深く点検していますが、物価動向を見通す
上で現状ではデフレスパイラルをもたらすリスクが高いとは考えておりませ
ん。
(問) 5月に入ると決算の発表を受けて企業金融が苦しくなる「5月危機」
が起こるのではないかと言われていた時期がありましたが、そうした「5月危
機」というリスクは和らいだとみているのかどうか、教えて下さい。
(答) 「5月危機」という言葉が適切かどうかは別にして、決算の発表と前
後して、企業金融あるいは金融市場がどのようになっていくのかということに
ついては、毎回の決定会合で注意深くみています。企業金融の現状をみると、
日本銀行や政府による政策対応を背景に、CPの発行金利が一段と低下してい
ます。また、これまで発行が止まっていた社債についても足許ではシングルA
格の発行がみられるなど、企業の資金調達環境の緩やかな改善が続いていると
判断しています。もっとも、企業業績の悪化傾向に加えて投資家の選別姿勢の
強まりが続くなど、企業金融はなお厳しい状況にあると認識しています。この
ため、決算の悪化に伴い企業の信用リスクに対する金融機関や市場の見方が一
段と厳格化するという可能性には注意する必要があると考えています。この点
に関しては、日本銀行による社債やCPの買入れ、あるいは金融システム面で
の施策として金融機関保有株式の買入れ、あるいは金融機関に対する劣後ロー
ンの供与というのは、懸念されているようなリスクに備えたセーフティネット
としての位置付けであり、そうしたものを日本銀行としては用意をしていると
いうことです。いずれにしても、企業金融の動向についてはこれからも注意深
くみていきたいと考えています。
(問) 物価についてお伺いします。実質GDPは今年度マイナス3.1%、
来年度プラス1.2%との見通しですが、消費者物価指数は今年度マイナス
1.5%、来年度マイナス1.0%となっています。「中長期的な物価安定の
理解」の中心値はプラス1%程度という水準で変わっていないと思うのですが、
需給ギャップが相当拡がっていることを考えると、需給ギャップが縮まって物
価を押し上げるような働きは考え難いと思います。中長期的な物価の安定は日
本銀行の使命だと思うのですが、景気は回復しても消費者物価指数のマイナス
が残る可能性があるということについて、本日真剣に議論されたのでしょうか。
暫く物価のマイナスが続くという現状をどのように評価されるのか、お伺いし
ます。
(答) 最初に物価の見通しについて説明致します。展望レポートでも指摘し
ている通り、物価の先行きについては上下両方向の不確実性が高いと考えてい
ます。当面の物価動向の最も大きな要因は、昨年上昇した石油製品あるいは食
料品の価格の反動部分であり、今後も下落傾向が続くと思われます。加えて、
需給バランスが過剰方向に向かうことで物価の下落が強まるという側面もあ
ります。
前者の前年の要因は1年経てば一巡しますから、物価の基調的な動きを
かたちづくるのは、需給ギャップと先程申し上げた中長期的な予想インフレ率
の動きなどです。しかし、需給ギャップは、定性的に捉えることはできますが
正確に計測し難いという問題があります。これだけ大きな経済の変動が起きた
わけですから、日本に限らず世界的に潜在供給力の不確実性が高まっており、
以前の環境で計算した供給能力よりも低くなっている可能性があります。その
場合には、需給ギャップは、当初想定したほど大きくないのかもしれません。
また、需給ギャップは、その時点では必ずしも正確に判定できません。1つの
例として申し上げますと、日本のバブルが崩壊した後、データが蓄積、遡及改
定されたことにより、需給ギャップは3%程度過大に推計されていました。今
回どうなるかはもちろん分かりませんが、需給ギャップの大きさは先になるほ
ど不確実性が高くなります。私どもとしては、先程申し上げたようにある程度
合理的な推測をしているわけですが、先行きについては丹念にみていくしかな
いと考えています。
デフレスパイラルのリスクについて、これを軽視しているのではないか
というご質問だとしたら、そういうことは全くございません。物価の下落がデ
フレスパイラルにつながるかどうかは、金融政策の運営上非常に重要なポイン
トですから、今回の決定会合でも丹念に議論し、先程申し上げたような結論に
至ったわけですが、私どもとしては、今後とも引き続き注意深くみていきたい
と考えています。
(問) 新型インフルエンザについて、どういう経路で日本の経済に影響を与
えるかをもう少し詳しく教えて下さい。2003 年のSARSの時は中国が主な出
所であったため、世界の生産拠点がどうなるかが非常に心配されましたが、今
回は欧米を中心に拡がるという見方もされており、そうすると日本経済への影
響の仕方も違うのではないかという想像もできます。その辺りについて総裁が
どのようにみられているのかお聞かせ下さい。
(答) 新型インフルエンザはまだ発生して間もないわけですし、特定のルー
トを具体的に申し上げるというよりも、どのような性格の問題として考えた方
がよいかということでお答えします。
今回の展望レポートの見通しもそうですが、日本の経済はグローバル
経済の動向と無関係には成立しないということは当然のことです。また、同じ
ことは海外の経済についても言えます。そうすると、この新型インフルエンザ
が拡がった場合、生産活動や販売活動、それから金融活動にしても、これらに
は必ず人が介在しますから、そうした活動に対して制約がかかってくる、ある
いは制約がかかってくるのではないかという不安が拡がることにより、色々な
かたちで経済に影響を及ぼす可能性があると思います。
ただし、現状それがどの程度のものかということについては、もちろ
んデータがあるわけではないので、私としてはルートを特定せず、しかし注意
して点検していくという姿勢で臨んでいきたいと考えています。
(問) 先程の質問にもあった通り、総裁は、いわゆる銀行券ルールを堅持し
ていくことを繰り返しいわれていますが、原則を維持しつつ、例えば、残存期
間が1年に満たないものについては短期国債扱いにするなど、ある程度柔軟な
運用を今後検討ないし実施していく可能性はあるのでしょうか。
(答) いつも一般論として申し上げていますが、金融政策を遂行していく上
では、経済・物価情勢について予断を持つことなく丹念に点検していくととも
に、予め特定の政策を排除したりあるいは必ず採用するといった考えを持つべ
きではない、というのが私の考えですし、政策委員会のメンバーもそのように
考えていると思います。国債の買入れは金融政策の一環として行っているわけ
ですから、金融政策の目的に照らして考えていく必要があると思います。私は
ルールという言葉をあえて使いませんが、それは、日本銀行が金融政策上の判
断から離れて、自らが決めたルールに従って機械的に政策を運営しているとい
うニュアンスがそこに込められているように感じるからです。長期国債の買入
れをどの程度にすれば金融政策を円滑に運営できるのか、という観点で考える
べきことであり、繰り返しになりますが、現状の買入れ規模が最適であると考
えています。
(問) 本日の展望レポートの中で潜在成長率が低下していると書かれていま
すが、潜在成長率が低下するということは、日本の国にとって、国民の生活あ
るいは政府の政策にとってどういうことを意味し、どのような影響があるので
しょうか。また、潜在成長率が落ちている時に、物価が、今は下落の方向です
が、仮にそれが再びガソリンやその他の価格の影響で跳ね上がってきた場合、
例えば今までよりも早目に金利を引き上げる政策を採らなければならなくな
るといったような、金融政策面への影響についても教えて下さい。
(答) 潜在成長率が下がっていくということは、どのような意味があるのか
というお尋ねですが、潜在成長率というのは、生産年齢の人口の成長率とそう
した生産年齢人口一人当りの生産性の伸びによって規定されます。短期的に人
口の成長率は所与であると考えると、一人当りの生産性が下がっていくという
ことは、言い換えると、それだけ豊かではなくなっていくということを意味す
るわけです。潜在成長率がそうした生産性の低下という要因で下がっていくと
いう事態は、国民が豊かではなくなっていくということですので、そうした事
態は望ましくないという常識的な答え以外にはないように思います。
金融政策運営上のインプリケーション、意味合いについては、潜在成
長率というのは長期の概念であり、短期的な金融政策に即影響していくという
ものではありません。ただ、潜在成長率の動向を見極め、需給ギャップの動向
がどのようになっていくかを見極めていくことは非常に大事な作業だと思い
ます。
(問) 今回の危機以前の世界経済は、米国が大きく消費を伸ばし、そこで赤
字を膨らませ、インバランスが拡大するかたちで世界が成長を遂げてきました。
アジアの過剰貯蓄が米国に入り、それが米国の過剰消費につながっていたとい
う指摘もあります。この危機が終わった後の望ましい姿を考えた場合、米国が
元の大きな消費に戻り、ある種のインバランスを再び拡大させるかたちで成長
していくという姿、あるいはもう少しアジア並びに新興国の需要が拡大すると
いう姿、さらには元々ここ4~5年の成長率が高すぎたのでもう少し低い成長
率の世界経済となるという姿などが考えられると思います。総裁は、そのあた
りのイメージについて、G7などにも出席されてどのような考えをお持ちで
しょうか。
(答) 非常に大きな問い掛けですが、今のご質問に対してG7の場で答えが
用意されたということではありません。これは各政策当局者あるいは経済主体
がどのような経済のビジョンを持つのかという性格の問題だろうと思います。
それを申し上げた上で幾つかお答えしたいと思いますが、これだけ大きな
ショックが加わると、どうしても議論が一方の極端から他方の極端にシフトし
やすいように感じています。つい数年前までは、世界全体でサプライ・チェー
ン・ネットワークが展開され、世界的な分業体制が整備されていく中で世界経
済全体が成長していくという見方が支配的だったように思います。今回、危機
が起きると、結局、過去数年間の景気拡大は、米国の過剰消費によって支えら
れていたという議論になりますが、私自身はその見方も極端だという感じがし
ています。
世界経済は、財・サービスの面でも金融の面でも相互に依存しており、
どの国にとっても一国だけで生産なり消費が完結するわけではないため、グ
ローバルネットワークの中で世界経済が拡大してきたということだと思いま
す。これからも、その基本的な姿は変わらないし、またその姿を維持していく
必要があると思います。そうした面で、現状、危険性がないかと言うと、幾つ
かの危険な兆候はあると思います。例えば、現状そこまではいっていませんが、
貿易の面で保護主義が強まっていくということはその流れに逆行するもので
す。また、各国で金融システム対策が採られた結果、どうしても金融的なナショ
ナリズムというものが強まってきて、結果として世界全体でみた最適な資金配
分から乖離する方向に向かいがちな面があります。そうしたことが進むと、こ
れまでの世界経済の成長を支えてきたグローバルなネットワークが損なわれ
てきますので、望ましくない姿になっていくと思います。
世界経済全体の成長率が2000 年代半ばのプラス5%前後の成長率に
戻るかどうかという点については、様々な可能性があるように思います。私自
身は2000 年代半ばの高い成長率は、やはりできすぎであったという感じは持っ
ていますが、どの程度の成長率になるのかについては明確な答えを持っている
わけではありません。そこは、予断を持つことなく見ていく必要があり、政策
当局者として大事なことは、世界経済の持っている潜在成長力が削がれないよ
うな政策運営、あるいは制度の設計ということに注意しなければならないとい
うことだと思っています。
(問)メガバンク等の2009 年3月期の決算修正等が出始めており、数千億円
規模の赤字という先もあります。現在の日本の金融システムの状態について改
めてお考えをお聞かせ下さい。
(答) 国際金融資本市場における緊張の持続や内外の経済環境の悪化が、有
価証券関連損失の拡大や信用コストの高まり等を通じて、金融機関経営に影響
を及ぼしてきており、大手金融機関では2008 年度の業績予想を下方修正し、
赤字決算を見込む動きが相次いでいます。
もっとも、赤字決算に伴う損失は、現状では金融機関の自己資本で十
分吸収できる範囲にとどまっており、わが国金融システムの安定性は全体とし
ては損なわれていないと判断しています。ただ何れにしても、これだけ経済・金
融が大きく動いていますから、実体経済や金融資本市場の動向が金融機関経営
や金融仲介機能に及ぼす影響については、引続き注意深くみていきたいと考え
ています。
2009-05-01