(問) 本日の政策決定会合の結果について、議論のポイントをご説明下さい。
(答) 本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、 0.1%前後で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維 持することを全員一致で決定しました。 こうした決定の背景となる経済・物価情勢の見方について述べますと、ま ず、わが国の景気は、「国内民間需要の自律的回復力はなお弱いものの、内外 における各種対策の効果などから持ち直している」と判断しました。内外の在 庫調整の進捗と海外経済の改善、とりわけ新興国経済が引き続き力強い回復を みせていることを背景に輸出や生産は増加を続けています。設備投資は、下げ 止まりつつありますが、設備過剰感が強いもとで、当面は横這い圏内にとどま る可能性が高いとみています。個人消費は、各種対策の効果などから耐久消費 財を中心に持ち直していますが、個人消費を支える雇用・所得環境は、引き続 き厳しい状況が続いています。また、公共投資は頭打ちとなっています。 この間、金融環境をみますと、厳しさを残しつつも、昨年春以降、改善の 動きが続いています。企業の資金調達コストの低下傾向が続いているほか、企 業の資金繰りも、中小企業を中心に厳しいとする先がなお多いものの、改善の 動きが続いています。 物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、経済全体の需給緩和 から下落が続いていますが、石油製品価格の動きなどを反映して、下落幅は縮 小しています。 先行きの見通しについても、先月の判断から変わっていません。2010 年 度半ば頃までは、米欧におけるバランスシート調整や国内での雇用・賃金面で の調整圧力の残存などから、わが国経済の持ち直しのペースは緩やかなものに とどまる可能性が高いとみています。その後は、輸出を起点とする企業部門の 好転が家計部門に波及してくるため、成長率は徐々に高まってくると予想され ます。物価面では、中長期的な予想物価上昇率が安定的に推移するとの想定の もと、マクロ的な需給バランスが徐々に改善することなどから、生鮮食品を除 く消費者物価の前年比下落幅は縮小していくとみています。 次に、リスク要因についても、先月と同様のポイントを指摘しました。景 気面では、新興国・資源国経済の強まりを上振れ要因として認識しています。 一方で、一頃に比べ低下したとはいえ、米欧のバランスシート調整の帰趨や企 業の中長期的な成長期待の動向など、依然として下振れリスクの要因がありま す。また、国際金融市場では、ギリシャ問題に現れているように、各国の財政 動向とその金融市場への影響が一段と注目されているほか、金融規制・監督の 見直しを巡る様々な議論の帰趨とその影響にも関心が高い状況が続いていま す。物価面では、新興国・資源国の高成長を背景とする資源価格の上昇によっ て、わが国の物価が上振れる可能性がある一方、中長期的な予想物価上昇率の 低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクもあります。 日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成 長経路に復帰することがきわめて重要な課題であると認識しており、中央銀行 としての貢献を粘り強く続けていく方針です。金融政策運営に当たっては、き わめて緩和的な金融環境を維持していく考えです。
(問) 物価の見通しについて、資源価格につられて物価下落幅が縮小してい くという話がありましたが、今後、この動きをどのようにみているのでしょう か。また、中長期的にみたマクロの需給バランスの重要性について話されてい ますが、デフレの構造要因、そしてそれを克服するために総裁が重要とお考え になっていることを改めて教えて下さい。
(答) 物価の今後の見通しについてですが、先月の決定会合で、昨年10 月 に公表した展望レポートの中間評価を行いました。現在の判断もその時と変 わっておりません。まず大きな流れとしては、徐々に景気が回復していく、つ まり成長率が高まっていくことにより、需給ギャップが徐々に小さくなり、そ のことが基調的な物価の下落幅を少しずつ小さくしていくということです。 国際商品市況も国内物価に影響します。国際商品市況は色々な要因に よって規定されますが、何といっても世界経済、特に新興国の経済成長のテン ポによって規定される面が大きいと思います。方向としては、今は急激な上昇 を見込んでいるわけではありませんが、商品市況は少しずつ上がっていくとみ ています。 そうした2つの力が合わさって、今後、物価の下落幅が少しずつ縮小 していくという姿をみています。計数的な説明は前回申し上げましたのでここ では省略します。 次に、デフレについてのもう少し大きな文脈でのご質問にお答えしま す。やや比喩的に答えると、デフレは経済の体温が低下した状態です。より根 源的な問題がデフレというかたちで症状として現れているといえます。従って、 その克服のためには、基調的に体温を上げていくための体質改善あるいは治療 が必要だと考えています。生産性の向上に地道に取り組むことによって、趨勢 的な成長期待を高めていくことが大事だと思っています。将来にわたって所得 が増えていくという期待が生まれてきて初めて、本格的に物価が上昇していく と思います。生産性の向上は、現在日本経済が直面している最も大きな問題だ と思っています。生産性の向上自体がわが国経済にとって不可欠であるととも に、デフレの克服のために大事な課題であると考えています。 では、その生産性の向上をどのように図るかというと、民間企業と政 策当局双方の努力が必要であるということです。やや抽象的な言い方になりま すが、民間企業については、高い成長が見込める新興国の需要を積極的に取り 込むとともに、国内では消費者の財・サービス需要を掘り起こし、これに対応 した供給体制へと資源配分を見直していくことが必要だと思います。こうした 需要の掘り起こしと資源の再配分によって、経済全体の新陳代謝が高まるとと もに、企業の生産性も向上すると思います。 政策当局については、このような企業の経営努力を後押しするために、 企業が熾烈なグローバルの競争環境に置かれていることも踏まえて、様々な制 度や仕組みを見直すことが重要だと思います。また、このような経済の大きな 変化・調整が生じる過程では、雇用をはじめ様々な面で資源の移動が避けがた いわけです。この間に生じる摩擦を最小限に抑え、資源の移動を円滑にするた め、社会的なセーフティーネットを用意することも、政策当局の重要な役割で あると思います。 日本銀行自身もこの過程でしっかり役割を果たしていきたいと思っ ており、強力な金融緩和を通じて企業や家計の支出行動を金融面から支えるよ うに努めています。先行きも、きわめて緩和的な金融環境を維持していくとい う明確な方針を打ち出しています。12 月には、3か月物の固定金利オペを導入 したほか、中長期的な物価安定の理解の明確化を図りました。こうした措置の 効果が、現在、金融市場に浸透しつつあると考えています。繰り返しになりま すが、日本銀行としては、こうした事を通じて中央銀行として最大限の貢献を していきたいと考えています。
(問) 物価安定の理解は、CPIが0~2%、中心値は1%です。先日の国 会答弁でも、インフレターゲットというキーワードを使って色々ご説明があり ました。これは、日銀としてインフレ上昇率1%を目標に定めていると受け止 めてよろしいのでしょうか。
(答) 12 月18 日の金融政策決定会合後の説明の繰返しになりますが、私ど もが発表しているのは、中長期的な物価安定の理解、物価安定とはどういうも のかという一種の定義です。それについて各政策委員の理解を集めて、その結 果は2%以下のプラスの領域であり、大勢として1%程度を中心と考えている ということです。これは、あくまでも中長期的にみた物価安定とはどういうも のかを明確に示したものです。 その上で、ご質問では目標あるいは、インフレーション・ターゲティ ングという言葉が使われましたので、その言葉に則してお答えします。国会の 席でも申し上げた事ですが、インフレーション・ターゲティングは、金融政策 を運営する時の枠組みの1つであり、英国やカナダ等では定着しています。し かし、今回の金融危機を通じて、インフレーション・ターゲティングという枠 組みについても、反省の気運が生まれてきているように思います。足許の物価 上昇率が目標物価上昇率を下回る状況が長く続くもとで、物価の動向だけに過 度の関心が集まった結果、物価以外の面では静かに蓄積されつつあった金融・ 経済の不均衡を見過ごし、結果として、金融危機発生の一因になったのではな いかとの問題意識が、以前に比べて高まってきているように思います。インフ レーション・ターゲティングが不適当だと言っているのではありませんが、イ ンフレーション・ターゲティングを採用してきて、これまで比較的上手くいっ たと思われてきた国において、実は今、インフレーション・ターゲティングの 問題をどう克服するかというのが、彼らの問題意識になってきているように思 います。 私自身は、インフレーション・ターゲティングということや、どういう ラベルを金融政策の枠組みに貼るかということを議論することにあまり多く のエネルギーを割いても生産的ではない、という感じがしています。インフ レーション・ターゲティングを採用している国も採用していない国も、結果と して金融政策の枠組みが、近年非常に似通ってきているという感じがしていま す。似通っている点を3点だけ申し上げます。1つ目は、物価安定に関する何 らかの数値的な定義あるいは目標を有しているということです。日本銀行に則 して言えば、「中長期的な物価安定の理解」になります。2つ目は、先行き数 年間というかなり長い期間の見通しを公表しているということです。日本銀行 に則して言えば、展望レポートです。3つ目は、その上で、金融政策運営に際 して、足許の物価動向だけではなく、中長期的に見た物価や経済、金融の安定 をより重視する必要性への認識が高まっているということです。日本銀行に則 して言えば、2つの柱による点検ということになります。 インフレーション・ターゲティングを採用しているかどうかということ は、現在の金融政策の枠組みを議論する上で、意味のある論点あるいは切り口 ではなくなってきているという印象があります。日本銀行自身は、各国の色々 な経験を見ながら、インフレーション・ターゲティングを採用している中央銀 行の良い部分、採用していない中央銀行の良い部分、それをすべて私どもなり に咀嚼して、それを組み込んだ日本銀行独自の枠組みを採用しています。ただ、 いずれにせよ、この枠組みがいついかなる時もベストだと言うつもりはありま せん。各国とも常に自らの金融政策の枠組みをどうするのが良いのかを議論し ており、そういう観点から私どもも考えていきたいと思っています。その上で、 私どもとしては現在はこの枠組みが最適だと考えています。
(問) 国際金融面について質問します。先程、ギリシャ問題にも言及されま したが、今月上旬にはG7等で海外出張へ行かれ、欧州の財政不安の高まりを 契機としたソブリンリスク(国が債務不履行に陥るリスク)等も議論されたと 思います。こうした議論に対する総裁の見解をお願いします。
(答) G7会合の議論から先に申し上げると、ギリシャの財政状況や今後の 展望について欧州諸国から説明がありました。EUのメンバー諸国がきめ細か く状況をみているということでした。その後、ご承知のように、EUの首脳会 合が11 日に開催されました。その際に発表された声明文において、ギリシャ 政府に対し、財政健全化に向けてあらゆる措置を講じることを要請するととも に、ユーロ加盟国は、必要があれば断固とした協調行動を採ると宣言していま す。当面は、ギリシャを含むEU諸国のこうした取組みを見守ることになると 思います。本件に関しては、日本銀行としても、各国中央銀行との情報交換な どを通じて、国内外の金融市場への影響を丁寧にモニターしているところです。 また、もう少し広く、ソブリンリスク、財政の問題についてお答えしま す。このところ国際会議に出て、色々な問題意識を自分なりに感じています。 1つ目は新興国経済の力強い成長、2つ目はソブリンリスク、財政のリスクに 対する関心の高まりです。特にここ1、2か月は、この問題に対する関心が高 まっていると思います。もともと日本の財政状況を考えてみると、大幅な財政 赤字が続いており、一般政府の債務残高の対GDP比が国際的にみてもきわめ て高い数値になっているなど、深刻な状況にあります。しかし日本の市場では 国債は円滑に消化されており、長期金利も安定して推移しています。 もっとも、今のご質問にもある通り、最近では欧州周辺国におけるソブ リン問題を契機に、欧米先進国や日本を含め、財政の持続可能性に対する市場 の関心が世界的に高まっていると思います。金融市場がグローバル化している ことを踏まえれば、国際金融市場の安定を維持するために、私自身は2つのこ とが重要だと考えています。第1は、財政再建の道筋を示し、この点について 市場の信認を確保することです。第2は、中央銀行の金融政策運営が、財政ファ イナンスを目的としていないこと、言い換えれば、物価安定のもとでの持続的 な経済成長を目的として政策運営が行われていることです。また、そうした中 央銀行の政策姿勢を政府が尊重し、市場も信認しているということだと思いま す。国際金融市場の動きをみると、現在市場はソブリンリスクをそうした観点 からみていると思います。
(問) 今、一般論として財政再建の重要性や、財政ファイナンスが目的とみ られることの問題に関してお話がありました。現在わが国でも、政府が中長期 的な財政規律の在り方を6月までを目処に定めると言っていますが、日本銀行 として、この問題に、日本経済の中でどのように取り組んでいこうと考えてい るか教えて下さい。
(答) 日本銀行の使命は、適切な金融政策運営を通じて、日本経済が、物価 安定のもとでの持続的な成長経路に復帰するように努めることです。そうした 経済の姿を実現していくことは、財政再建を進める上でも、重要な条件の1つ を整えることになると考えています。先程、中央銀行の金融政策運営は、財政 ファイナンスを目的としたものではなく、物価安定を通じて持続的成長に貢献 していくものであるということを申し上げましたが、そうした姿勢で臨むこと、 そうした中央銀行の政策姿勢が十分信認を受けている、尊重されているという ことが大事だと思っています。
(問) 先程、インフレーション・ターゲティングを採用している中央銀行と そうでないところの相違はそれほど大きくないとのご説明がありました。しか し、総裁ご自身あるいは日本銀行としては、インフレーション・ターゲティン グを採用すると大きな弊害があるとお考えだと思うのですが、どうして目標の 数値を固定してしまうと危ないのかという点について、もう一度詳しくご説明 下さい。
(答) 先般、G7に参加しましたが、G7の国の中でインフレーション・ター ゲティングを採用している中央銀行は、英国とカナダです。残り5つの国は採 用していないわけです。なぜ日本銀行がインフレーション・ターゲティングを 採用していないかという問題設定もありますが、逆に言えば、英国とカナダは なぜ採用しているのかという問いの立て方もあるかと思います。インフレー ション・ターゲティングについては、「ターゲティング」という言葉に皆の関 心が集まりがちですが、私自身は、実際には金融政策を運営していくときの説 明の1つの枠組みだと思っています。 例えば、BOEの先日の金融政策決定会合発表文、あるいはインフ レーション・レポートをみると、物価上昇率を、通常言う意味での「ターゲッ ト」すなわち「目的」にした政策運営をしているわけではありません。現在、 英国の足許の物価上昇率は、3%を超える上昇率に上がってきています。そう なると、通常は、そこで金利を引上げていくということが自然に想定されます。 これが、通常言うところの「ターゲット」という言葉に最も馴染む感じです。 しかし実際には、そういう政策運営はしておらず、むしろ今、英国はきわめて 緩和的な金融環境を維持しています。 ECBはインフレーション・ターゲティングを採用していませんし、 自分たちは採用しないということを繰り返し言っています。これは、通常言う 「ターゲット」の意味で短期的に足許の物価上昇率と目標値との間を埋めてい くような政策運営をしていくという見方が生まれると、結局、金融政策が最終 的に目標とする持続的な成長にむしろマイナスになる側面もあると判断して いるからです。必ずこうなるというわけではありませんが、そういう側面もあ るのです。 インフレーション・ターゲティングが成功するための大事な条件は、 インフレーション・ターゲティングとは中長期的な経済・金融の安定を実現し ていくための説明の枠組みである、ということについて十分に理解があること です。逆に言えば、インフレーション・ターゲティングが、通常言う「ターゲッ ト」の意味で議論されているような政策運営であると理解されると、おそらく 上手くいかないと思います。
(問) 現在、政府・与党で郵政改革の協議が進んでおります。郵政改革素案 をみますと、預入限度額や運用対象などについて相当大幅に緩和する方針が検 討されているように思います。他の民間金融機関との競争条件の観点から色々 と議論が出ていると思いますが、総裁はどのように感じているかお聞かせ下さ い。
(答) 先般公表された郵政改革素案は、今後所要の議論や調整を経て内容を 確定するものとされており、政府出資など幾つかの重要な論点については、こ れから具体論を詰めていく段階にあると承知しています。従って、現時点では この素案について具体的なコメントをするというよりも、もう少し一般的な、 しかし重要と思われる考え方について申し上げたいと思います。 日本銀行としては、郵政事業の国民生活における位置付けや、これへ の公的関与のあり方については、様々な観点からの検討を踏まえた上で、国民 的合意に基づき決められるべきものだと認識しています。中央銀行の立場から 言えることは、そうした決定を行うにあたっては、本件が長い目でみてわが国 の金融システムや金融市場に大きな影響を与える可能性があり、そうした観点 を踏まえた検討が十分に行われる必要があるということです。 今回の世界的な金融危機の震源地である米国を例にとって説明する と、GSE(政府支援法人、Government-Sponsored Enterprises)という、暗 黙の政府保証を有した公的金融機関の破綻、あるいは「too big to fail」と いう言葉で表されるような、政府・中央銀行による救済を前提にした民間金融 機関の行動が問題となったわけです。このことが示すように、金融と政府の関 わりの在り方というのは、中長期的にみて金融システムの安定を維持していく 上で、非常に重要な点だと思います。 例えば、「公益性の高い民間企業」との位置付けの下で、民間金融機 関との競争条件の公平性をどのように確保することが適当かといった点や、郵 政事業を新しい経営形態に再編する中で、金融業とその他の事業のリスク遮断 をどう実現するかといった点は、重要な論点だと思います。巨大な金融機関で すから、民間金融機関と同様、リスク管理を徹底するということもきわめて重 要だと思います。日本銀行としては、こうした点について、今後、議論が深め られていくことを期待しています。
(問) 新興国経済の過熱リスクについて、どのようにご覧になっているか詳 しく教えて下さい。
(答) 新興国経済も国によって随分状況が違うので、最初に全体的な話を申 し上げます。現状、新興国経済が大きく過熱していると思っているわけではあ りません。ただ、昨年春以降、私どもの予想を上回って力強く拡大してきたと は思っています。その理由を3点申し上げると、1つ目はインフラ需要を中心 として内需がもともと旺盛であるということ。2つ目はバランスシート調整の 問題を抱えていない中で先進国と同じように大規模な景気刺激政策を行った こと。3つ目は、現在、先進国では十分な投資機会がないため、先進国の金融 緩和政策のもとで資金が新興国に流れ込んでいるということだと思います。 先週も新興国も含めた会議がオーストラリアのシドニーであり、色々 な議論を聞いていましたが、やはり国によって状況は違うという感じがします。 その意味は、例えば、資源をどの程度抱えているかということもそうですし、 為替レートについてどのような制度を採っているかにもよります。つまり固定 相場を採っている国の方が、より先進国の金融緩和の効果による影響が出やす いわけです。このように国によって違いがある中で、問題は、景気が力強く拡 大していくもとで政策をどのように運営していくかということです。幾つかの 国では金利を既に引き上げています。中国については、金利は引き上げていま せんが、先般来、預金準備率を引き上げる、あるいは窓口指導を強化するとい う方向に踏み出しているわけです。中国の当局者の説明、あるいは発言を聞く と、経済の過熱を防いでいくこと、経済を安定的に成長させていくことの必要 性を十分認識していると思います。私としては、どうなるかをここで予測する よりも、そのように中国の当局者がしっかりと問題の性格を理解した上で適切 な対応を取ろうとしていると申し上げたいと思います。
(問) トヨタ自動車のリコール問題が大きくなっています。一企業のことで はありますが、非常に影響力があり、裾野が広い企業の問題です。今後の産業 界・景気動向にどのような影響があるとお考えか、ご所見があればお願いしま す。
(答) 個別企業の問題についてコメントすることは差し控えたいと思います。 もっとも、今ご質問にあった通り、自動車産業が裾野の広い産業であることも あり、その動向は、定性的にいえば生産をはじめわが国の経済全体に大きな影 響を及ぼし得るといえます。その意味で日本銀行としては、マクロ経済・物価 動向に与える影響という観点から今後の展開を注目していきたいと思ってい ますが、現状、大きな影響が出ているとは認識していません。
(問) 強力な金融緩和という点についてお伺いします。現在、ターム物金利 が非常に低い状態になっていますが、現状、金融緩和の効果は十分に発揮され ているとお考えでしょうか。また、市場機能の維持ということをお考えだと思 いますが、これは維持されているとお考えですか。
(答) まず、金融緩和の効果についてです。日本に限らず他の先進国もそう ですが、この1 年間を考えるとオーバーナイト金利は横這いとなっており、日 本でいえば0.1%の状態が続いているわけです。このように、オーバーナイ ト金利自体は変わっていませんが、この1年間、あるいはこの半年、この3か 月と区切ってみても、様々なかたちで金融緩和の効果は強まっていると思いま す。その意味で、金融緩和の効果は強まり、その効果が浸透しつつあり、それ が現在進行形であると思っています。 日本のケースに則していえば、固定金利オペの効果ももちろんあって ターム物金利が低下したほか、信用スプレッドも低下しています。それから、 企業の投資収益率をみると、1年前に比べて現在の方が明らかに好転している わけですから、同じ資金を調達して投資する場合でも、同じ金利、同じ資金の 持つ意味合いが随分変わっているわけです。また、資金のアベイラビリティー (調達可能性)も高まっています。 もう1つ私どもが強調していることは、先程、先進国の金融緩和が新 興国に波及するということを申し上げましたが、そのことがまた日本も含めて 先進国の方に戻ってくるということです。外需を完全な外生変数として扱うと いう議論がよくあります。確かに相当部分が外生であるというのは、多くの場 合その通りですが、すべてが外生ではなく、先進国が全体として行っている金 融緩和の効果が、自らにブーメランの様に跳ね返ってきているという面もある わけです。色々なかたちで金融緩和の効果が浸透中であるといえます。時々、 日本銀行が止まっている様な感じのコメントもありますが、金融緩和政策の効 果が出るには1年半から2年かかるわけで、そういうものが今浸透していると 思っています。 次に、市場機能についてです。ご質問の趣旨は、短期金融市場におけ る市場機能の維持は図られているのかということだと思います。確かに、これ だけ潤沢に資金を供給していますし、現在の低金利が続くということを明確に していますから、どうしても市場取引が不活発になり市場機能が低下しやすい という面があることは、ご質問の背後にある問題意識の通りです。しかし一方 で、市場機能をしっかりと維持するということも非常に大事です。私どもの金 融市場局で行っているオペでは、できるだけ市場機能の維持を図るための様々 な工夫をしています。従って、以前と全く同じように市場機能が働いていると 言うのは多分言い過ぎだと思いますが、私どもなりに努力しています。
(問) 先日、銀行に対する劣後ローンの供与が今月24 日の入札で最後にな るという発表がありました。銀行保有株の買取も4月末で期限を迎えますが、 これは予定通り4月で終了するのでしょうか。
(答) 金融機関保有株式の買入れは、昨年2月、内外の金融資本市場が強い 緊張状態を続けるもとで、金融機関に一種の安全弁を提供することによって金 融システムの安定確保を図る観点から、2010 年4月末までの時限措置として導 入したものです。金融資本市場や金融システムは、昨年のような強い緊張状態 から脱し、多くの金融資本市場が安定してきているほか、多くの金融機関が株 式保有リスクの削減を経営上の重要課題と位置付けて、リスク削減に向けた取 り組みを進めていることなどを踏まえ、現時点で当初の予定を変えることは検 討していません。日本銀行としては、引き続き金融資本市場の動向や金融機関 における株式保有リスクの状況などを注意深くモニターし、適切な対応に努め ていきたいと考えています。
(問) 2点伺います。まず、先進国に共通していると思いますが、金利面で はきわめて緩和的な低金利の状態にある一方、銀行貸出の面では、欧米ともに かなりの落ち込みを示しています。日本でも昨年11 月以降、前年割れの状況 に入ってきています。これは量的な緩和が浸透していないとみえなくもないわ けですが、どのように評価されているでしょうか、 次に、先程から新興国向けの資金が先進国から流れているとの指摘が ありました。ドルキャリートレードとも言われていますが、ごく最近では、む しろ巻き戻しが起こっているとの見方が強まってきているように思います。そ の点についてどのように分析・評価されているのかお聞かせ下さい。
(答) まず、前者の質問についてです。ご指摘の通り先進各国をみると、銀 行貸出の伸び率が低下してきています。この点は、色々な国際会議でも頻繁に 議論されている点の1つです。どの先進国にも共通していますが、銀行貸出の 伸び率は下がっている一方、資本市場は活況を呈しているという二極化現象が 生じています。その意味で銀行貸出だけをみて資金調達全体の動向を判断する ことは必ずしも適切ではないとは思いますが、銀行貸出の伸び率の低下をどう 受止めるかというのは大事な論点です。この点、欧米の銀行貸出の伸び率の低 下はかなり急激なもので、日本のバブル崩壊後の銀行貸出の伸び率の低下より も大きく、その点私自身も大きな問題意識を持っています。一方、日本は他の 欧米諸国と異なり、一昨年秋のリーマンショックの時に銀行貸出の伸び率が高 まりました。足許は、伸び率が高まった前年対比でみて、伸び率が下がってい るので、2年前と比較した場合には変化があるわけではありません。一方の欧 米では、トレンドでみても、伸び率が急激に下がっているわけです。 これが何を意味するのかということですが、景気が落ち込んできたの ですから、当然、借入需要も落ち込んできているわけです。従って、借入需要 の低下で説明できる現象なのか、あるいは銀行のリスクテイク能力が低下して いるために貸し出せない状況なのかということだと思います。ご質問の主たる 関心が日本にあるとすれば、現在、日本については、銀行が自己資本不足から 貸出をしがたいという状況ではないと思っています。 それから2つ目の新興国への資本流入、ドルキャリーについてのご質 問です。私が先程申し上げたのは、ドルキャリーだけではなく大きな流れとし て、先進国から新興国への資金の流れ、あるいはリスクテイク資金の流れにつ いてです。ご指摘の通り、足許ではギリシャ問題に代表されるような国際金融 市場の変化の中で、リスクテイクの能力が少し下がっている面があることは事 実です。これがどのようになっていくかについて関心を持ってみているところ です。
(問) 先週、IMFが論文を出し、目標とすべき物価上昇率は現在各国が示 している2%といった水準ではなく、もっと高い、例えば4%程度が望ましい のではないかと問題提起をしています。それについてどのように受け止められ たかお聞かせ下さい。
(答) ご指摘の論文は、IMFのブランシャール調査局長らによる個人名論 文であり、IMFの提言が示されたものではないと思います。IMFのホーム ページを見てみますと、大変な量のペーパーが公表されておりまして、たくさ んあるペーパーの1つだと認識しています。 この論文は、今回の世界的な金融危機を踏まえて、金融政策のほか、 財政政策や金融規制を含む経済政策全般について改めてどのような教訓を引 き出すべきかを検討したものです。論文では、物価下落のリスクに備え、予め ある程度の物価上昇を容認し、金利の引下げ余地を確保するという、いわゆる 「のりしろ」の議論を取り上げています。このペーパーでは、今回の危機を踏 まえてもう少し高めの目標インフレ率を設定した場合のコストやベネフィッ トを再検討してはどうかと提案しているわけです。ただ、ご質問にあった4% という数値は、あくまでも例として挙げている数字であり、しかも、これが望 ましいと結論が出されているわけではない、ということも書かれています。 よって、このような議論をどう考えるのかという問題提起だと受け止めていま す。 日本銀行の物価安定の理解は、論文で指摘されているインフレ率の 「のりしろ」も考慮に入れて設計しています。これは議事要旨等でも公表され ていますのでご覧下さい。また、高めのインフレ率がもたらすコストやベネ フィットのほか、過去のインフレ率の実績や国民の物価観など、様々な要素を 考慮しています。こうした要素を考慮した結果、物価安定の理解について、「消 費者物価指数の前年比で、2%以下のプラスの領域にあり、委員の大勢は1% 程度を中心と考えている」ということを示しています。 あえて、ご質問の4%ということについて申し上げると、インフレー ション・ターゲティングを採用している国の目標物価上昇率が2%だとし、そ こに2%オンするということは、要するに2%の金利の引下げ余地があるとい うことを意味するわけです。しかし、今回の世界的な金融危機を振り返ってみ た場合に、あともう2%の金利引下げ余地があったら、この事態は防ぐことが できたかという問いを立てた場合に、私にはとてもそのようには思えません。 これだけのショック、あるいはそのショックを引き起こす原因となった大規模 な信用バブル、この発生をどう抑えていくかということの方が遥かに重要な問 題意識だと思います。この点、IMFの論文では、金融の規制監督のあり方、 それからこのペーパーでは必ずしも論じられていませんが、物価上昇率が低い 状況のもとで長期間にわたって金融緩和政策を続けると結果としてバブルが 起きてしまうということも深刻な反省となっているわけです。個人的に4%を どう考えるかということについては、今申し上げた感想になります。
(問) 本日の会合は非常に時間が短かったと思いますが、これはどうして短 くなったのでしょうか。定数9名の政策委員が現在7名になっていますが、こ うしたことも関係しているのでしょうか。
(答) 本日の会合が従来に比べて早く終わったのはその通りです。ただし、 早く終わったからといって議論が十分ではなかったということではもちろん なく、本日も十分密度の濃い議論を行いました。そうした議論を過不足なく 行った結果、時間としては、発表されたような結果になったということです。 次に、この時間が、政策委員の数と関係しているのかということです。 もちろん物理的な計算からすれば、例えばあるテーマについて1 人平均5分話 すと考えれば、人数が減ればその分時間が短くなるということは原理的には考 えられます。しかし、実際の会議はそのように機械的なものではなく、色々な 現象について色々な見方を提示し、そこでまた喧喧諤諤の議論が始まるわけで す。もちろん人数が無関係というわけではありませんが、単に人数が少ないか ら短いというわけではありません。ちなみに前回の会合と今回の会合では人数 が変わっていませんので、人数が関係しているということでは必ずしもないと 思います。
2010-2-19


